昔から電車に乗ると、何かおかしな事が起きる。そのごく一例を書いてみよう。
ある日の昼間、ドア付近の優先席に位置する場所(3人席)に座った。
ガラ空きのその日のその時間、車両はパラパラと人がいるだけで
反対側の正面の座席には1人の男が座っている。
その男の年齢は推するに30代〜40代前半。黒い革ジャンに皮パンでTシャツ、ネックレス。
しかし顔や髪は恐ろしく普通。ミュージシャンにしてはどこかわざとらしい。革ジャン皮パンが全く似合わない。
全く覇気のないポールヤングかっ。(古いか)的などこか変な男だった。
ものすごく眠いのか、眼を閉じたり開けたりしながらグラングラン揺れており
この時間から酔っぱらってるとはなー、等と思っていた。
しかし顔は赤くなく、どちらかというと青白い。
すると急に立ち上がり、何か考えた様な顔をし、降りるのか?と思ったがまた急に座って眠った。
直後に、シートから何かがポタポタと。
そう。失禁したのだ。
あーおいおい。
その席の周りは水浸し。座席の前まで水たまりが出来ている程。しかし皮パンから
どうやってそんなにしみ出る?という程。(裾まで伝って来たんだな)
謎の覇気無しポールはその後やはり急に起き、失禁を気にする様子もない。おいおい。
そしてそのまま駅で降りた。
その駅は人の乗り降りが多く、入れ替わりでその席付近にも数人乗って来てしまった。
当然、皆座ろうとする。で「あ、そこは!」と注意する間もなく女性が座ってしまった。そして
あ、ナニこれ、と思って横に移動する。確かめるようにそこに触れている。「あーヤメロー」と
言えない程混んでいる。席の前には足下の水たまりを気にしながら立っている人も既にいる。
例えば買い物して飲み物の瓶やペットボトルから何かこぼれたのだろうとか
そんな風に考えて疲れた足腰を休める為に座る事を優先するのだろう。
幸か不幸か、失禁席に直接座った人は最初の女性一人だけで、すぐまた車両が空いて来た。
そして学生らしき男子がまともに座ろうとしたその時
「あーそこ、こういうやつがシてしまったんだよ」と教えたら
「ゲー!ありがとうございます。マジすか。」と言い、学生は隣の車両に移って行った。
さらにまた次の駅で同じように人が座ろうとし「あ、そこ〜」「あ、そこ〜」と何回も言い続けた。
その度「エー」とか「ゲー」とか。皆反応していた。
何だ俺。
この役を降りるまでやんのか?何だこの責任。
半ばヤケになって次々に教え続け、そのうちどうにもならない人数が乗って来て
もう直接座るわ自分の前にも人が立ってるわで言うの無理なので諦め、ついに目的地で降りた。
青白い顔とおかしな動き、失禁。似合わない革ジャン。あれは麻薬と思われる。
とある夕刻、ほぼ満席の、やはり3人席の正面に、ホームレス風な人が
紙袋だったか発泡スチロールだったかを抱えて独り言を言っていた。
と!人の臭いではない強烈な臭いに気づいた。
その人が言っている言葉はこうだ。
「んもう、いやんなっちゃうよなあ、こんなもんもらってもなあ。」
「んもう、まったく困るんだよなあ、こういうのはなあ もらっちゃったからなあ」
そんな事をずっとつぶやいていて、抱えているものにはこう書いてあった。
「くさやのひもの」
聞こえよがしに言っていたのは「申し訳ない」「このせいで臭い」という説明と言い訳なのだろう。
そう思うと何か可笑しくなり、その人の人柄の良さ?を勝手に想像してしまった。
そうだな、仕方ないよ、あんた、と。